部下の教育は、人材育成に欠かせない取り組みの1つです。特に近年は、少子高齢化により労働人口が減少しており、限られた人数で最大限の成果を出す必要があります。社員一人ひとりの能力を最大限に発揮するには、部下に対する適切な指導法が重要です。しかし、部下にはさまざまなタイプがあるため、画一的な教育では成長を促すことはできません。
当記事では、部下・後輩教育におけるポイントとタイプ別の教育方法を解説します。上司・先輩という立場になった人は、パワハラと言われない教育方法も知っておきましょう。
目次
部下の力を最大限に伸ばすためには、いくつかのポイントを押さえた上で、教育の中に落とし込むことが重要です。ポイントを無視すると、上司の独りよがりな教育になってしまい、部下の成長につながらない可能性があります。
ここからは、部下の教育で意識すべき4つのポイントを、メリットを踏まえて紹介します。
部下を信頼・尊重することは、教育・育成における大前提です。部下の仕事に対する価値観や取り組み方を尊重しないと、上司の考えを押し付けるだけの教育になりかねません。
初めに部下との信頼関係を構築できれば、部下自身も「上司の意見を受け止めよう」という気持ちになれます。部下からの信頼を得るには、日頃から悩みや考えに寄り添い、理解しようとする姿勢が大切です。部下が失敗しても、本人の取り組みや挑戦を尊重した上で、失敗の原因を一緒に探しましょう。
上司が答えを出すのではなく、部下が主体的に働ける環境をつくることも大切なポイントです。部下が自分の頭で考えて行動できるようにならなければ、上司がいつまでも指示を与えなくてはならず、課題の根本的な解決にはなりません。
近年は、少子高齢化の進行により市場全体で労働人口が減少しているため、企業の成長には社員一人ひとりの主体的な行動が必要です。能力を生かせる機会を設けたり、あえて上司が口を挟まない場面をつくったりするなど、部下が主体的に働ける環境を整えましょう。
コミュニケーションを取る際には、部下の性格に合わせたアプローチが必要です。部下の性格に合わないコミュニケーションの取り方をすると、上司からの教育にストレスを感じる可能性があります。
たとえば、普段から活発な姿勢の部下であれば、上司からも積極的にコミュニケーションを取って問題ないでしょう。一方で、内向的な性格の部下であれば、ある程度の距離感を保ちつつ、少しずつコミュニケーションを増やすほうがよいと言えます。まずは部下の性格を把握するところから始め、適切なコミュニケーションの在り方を模索しましょう。
部下に着実に成長してもらうためには、現状に合わせた目標を設定する必要があります。現実とかけ離れた目標を設定すると、部下が成長を実感できず「自分の力が足りない」という感情が強くなってしまうためです。
部下自身が成長を実感して前向きな姿勢で業務に取り組むには、上司がこまめに褒めることも重要です。業務を行う中で部下が違う方向に進んでいると感じた場合は、軌道修正をサポートしてください。
性格や特徴を分類するための方法として「バートルテスト」があります。バートルテストとは、ゲーム研究者のリチャード・バートルが提唱するゲーマーの分類法であり、仕事への取り組み方をタイプ分けする際にも有効です。部下のタイプはバートルテストになぞらえて大きく4種類に分けられるため、タイプに合わせた教育方法を実践する必要があります。
ここからは、それぞれの部下に適した教育方法と成長を促すコツを解説します。
キラータイプは、他のプレイヤーよりも自分が優位にある状況を好む、競争意識が強いタイプです。キラータイプの多くは、自分の位置が分かることで、競争相手を上回るためにさらに努力しようとする傾向にあります。
そのため、キラータイプの部下を教育する際は、現状の立場や能力を明確にする教育方法が効果的です。社外コンペティションへの出場を提案するなど、広い視野でのマネジメントを心がけることで、教育効果を高められるでしょう。
ソーシャライザータイプは、仲間との関係性がモチベーションとなる、仲間意識が強いタイプです。組織内で良好な人間関係を保ったり、業務遂行にあたって仲間と協力したりすることに喜びを感じる傾向にあります。反対に、1人で業務に取り組むケースではストレスを感じやすくなります。
そのため、ソーシャライザータイプの部下は、仲間と協力しながら目標達成を目指す環境に置くとよいでしょう。人事異動や業務振り分けの段階で、仲間と連携できる環境下となるよう十分に配慮してみてください。
アチーバーが日本語で「達成者」を意味するとおり、アチーバータイプは自分自身が目標を達成することに喜びを感じるタイプです。「困難にも積極的に挑戦する」「成長意欲が強い」といった特徴もあります。
アチーバータイプの部下を指導する際は、目標設定と達成状況を定期的に確認し、「目標を達成できた」と感じる機会を増やしましょう。そうすることで業務に前向きに取り組めるようになり、さらなる成長が期待できます。また、挑戦心を引き出すために、少し困難だと感じるレベルの目標を設定することもポイントです。
エクスプローラータイプは、自分の興味がモチベーションとなる、探検者のようなタイプです。好奇心が強いため、同じことを繰り返すよりも、常に新しい挑戦を好む傾向にあります。
そのため、部下の意思を確認しながら、本人が希望する業務を任せたり、新たな企画に挑戦してもらったりするとよいでしょう。成果に対する適切な評価を与えれば、さらなる成長を促すことが可能です。ただし、他者と比べる相対評価には関心を持たないケースが多いため、部下自身に焦点を当てて評価するようにしてください。
部下の指導においては、パワハラと捉えられないように注意する必要があります。上司本人にとっては教育のつもりでも、部下が「パワハラだ」と思えば、やり方・言葉のかけ方1つでパワハラになる可能性があります。パワハラとならない教育方法を実施するためには、下記の3点を重視することが大切です。
●注意・指導の目的や必要性を考えた上で、正しく叱る
「なぜ注意するのか」「どうして指導をするのか」という目的や必要性が不明瞭であれば、部下は上司が感情的に叱っているだけだと思いかねません。欠点をただ指摘するだけの教育とならないよう、注意・指導をなぜ行うのかを考えた上で、叱っている理由を部下に落ち着いて伝えましょう。
●言葉においても感情的にならず冷静に対応する
部下の教育において、暴力はもちろんパワハラです。また、感情的になってつい汚い言葉遣いや激しい口調になることも、パワハラに該当します。感情が高ぶって行きすぎた言動とならないよう、いかなる理由があっても感情的にならず、冷静な対応を心がけてください。
●周囲に誤解されかねない内容を控え、具体的な問題点と改善案を提示する
自分はパワハラのつもりがなくても、客観的に見て相手を傷つけているのであればパワハラになります。そのため、職場内で周囲にパワハラだと誤解される暴力的・威圧的な言動や行動は控えてください。その代わり、部下がどのような方向性を歩めばよいのか分かるよう、具体的な問題点と改善案を提示しましょう。
パワハラに該当する高圧的な指導では、部下は成長しません。上記の3点を意識し、部下がのびのびと育つ職場環境をつくりましょう。
上司による部下の教育は、社員一人ひとりだけでなく、ひいては企業の成長にもつながります。部下の能力を最大限に引き出すためには、「部下を信頼・尊重する」「部下が主体的に働ける環境をつくる」「部下の性格に合わせてコミュニケーションを取る」「適切な目標を設定する」の4点を意識することが大切です。
部下がキラータイプ・ソーシャライザータイプ・アチーバータイプ・エクスプローラータイプのどれに当てはまるのかを考え、パワハラにならないよう注意しながら適切な指導を実施し、部下の成長を支援してください。