会社経営者や個人事業主など事業を営んでいる人は、事業拡大を一度は真剣に考えたことがあるでしょう。事業拡大は現在の事業よりもビジネスの手を大きく広げることであり、事業全体の利益増加を実現する有力な経営戦略となります。
しかし、事業拡大は企業や業界の状況によって成果が左右されやすく、リスク管理を要するデメリットが存在することも事実です。そこで本記事では、事業拡大を検討している人に向けて、事業拡大の方法とタイミング、メリット・デメリットなどについて解説します。
目次
事業拡大とは、現在の事業内容よりも事業活動を大きく広げる経営手法です。事業拡大に成功すると事業利益の増加を期待できるため、現在の日本では多くの中小企業が事業拡大を検討しています。大企業・中小企業を対象としたアンケートでは、「新市場開拓」「新製品開発」について、50%を超える企業が「実施している」「検討している」と回答していました。
出典:株式会社 野村総合研究所「平成28年度中小企業・小規模事業者の成長に向けた事業戦略等に関する調査に係る委託事業事業報告書」
自社の成長を目指す企業にとって、事業拡大は取り組むべき課題です。ここでは、事業拡大の方法と実施するタイミングについて解説します。
事業拡大を検討する場合、まずはどのように事業を広げるかを決めましょう。事業を広げる方向性によって、「既存事業の拡大」「新規事業への進出」と2つのビジネスモデルがあります。
●既存事業の拡大
現在行っている事業内容を深掘りすることで、さらなる利益を追及する方法です。既存事業のノウハウや販路が活用できるため、事業拡大としては低リスクで行えます。ただし、成功するためには既存市場開拓の余地や、自社製品・サービス需要の変化などを分析することが大切です。
●新規事業への進出
既存事業とは異なる新しい分野に進出し、新規事業による利益を創出・拡大する方法です。新規事業には新しい生産体制や販路の構築が必要であり、新規市場の環境や他社製品についても入念に調査しなければなりません。リスクは高いものの、新規事業が成功した場合は新たな利益を生む軸となり得ます。
個人事業主・中小企業が事業拡大すべきタイミングとは、下記の3つの条件が揃っている時です。
事業拡大は実施した当初こそ順調であっても、経営環境や社会情勢の変化によって継続が難しくなる可能性があります。そのため、安定した売上や人手・時間といった経営上の体力、リスク対策を行える資金の用意がある時が、事業拡大を実施して成功が見込めるタイミングです。
また、個人事業主が事業拡大する時は、「法人設立」も視野に入れましょう。法人を設立すると事業にかかる税金は法人税となり、大きな利益を出した時に個人事業主の所得税よりも税率が低くなります。法人は、金融機関からの資金調達を行いやすくなることもメリットです。
事業拡大が成功すると大きな利益を得られる以外に、企業にとっていくつかのメリットがあります。一方で、事業拡大は資金・設備・人材などリソースの投入が必要であるため、赤字や倒産のリスクが存在することも覚えておきましょう。
ここでは事業拡大のメリット・デメリットを2点ずつ紹介します。
事業拡大によって自社の活動する幅を広げることは、より多くの取引先や消費者と接点を持つことに繋がります。事業拡大に成功すれば、テレビや雑誌などのメディアに取材されることもあるでしょう。企業の知名度が上がるとブランドイメージも向上するため、新規顧客の獲得に有利です。
また、知名度が上がると採用面で優秀な人材を確保しやすくなります。優秀な人材を採用することで拡大した事業が安定しやすくなり、さらなる利益を生む原動力となることが、事業拡大によるメリットです。
事業拡大は「既存事業の拡大」「新規事業への進出」のどちらを選んでも、実施することで自社が関わる市場規模を広げることが可能です。1つの市場は社会情勢や技術革新の影響によって大きな変化を迎えることもあるため、自社が関わる市場を広げる事業拡大はリスク分散となります。
たとえば新規事業への進出に成功した場合、既存事業の市場が停滞して損失が生じても、新規事業の収益によって損失を賄えます。多角化戦略によって市場対応力を向上し、1つの事業に依存しすぎない企業戦略を取れることが事業拡大のメリットです。
事業拡大を実施するためには、先行投資が必要となります。必要な金額は事業拡大の方法や事業内容によって異なるものの、設備導入・人材確保・製品開発などにかかる総コストは決して低くありません。先行投資の金額を自己資金で賄うか、外部から資金調達を行うかを考え、当面の資金繰りについても考えることが必要です。
また、事業拡大に成功して利益が増加しても、最初は先行投資した費用の回収となります。事業拡大によるリターンが得られるまでには時間がかかることも覚えておきましょう。
事業拡大とは組織の規模を大きくすることであり、企業が管理する「ヒト・モノ・カネ・情報」の経営資源も大きくなります。人材や設備、データなどの管理におけるマネジメントの負担が増えることは、事業拡大のデメリットです。
人材管理だけを考えてみても、既存事業と新規事業における人材の振り分けや業務割り当て、新入社員・管理者の教育などを行わなければなりません。組織が大きくなると従業員同士のトラブルが起こりやすくなり、情報伝達の遅延・齟齬も発生しやすくなります。
経営資源のマネジメントを行えなくなると正常な事業運営が難しくなるため、事業拡大は成功しません。そのため、事業拡大を検討する時は、自社のマネジメントできる範囲を分析しておくことが大切です。
事業拡大を実施することが決まっても、実際の成果が出るまでには時間がかかります。大企業・中小企業向けに行われたアンケートでは、成果が出るまでに3年未満が42.8%、3~5年未満は35.3%となっています。事業拡大の成果が出るまでには、1年~4年程度かかると考えましょう。
出典:株式会社 野村総合研究所「平成28年度中小企業・小規模事業者の成長に向けた事業戦略等に関する調査に係る委託事業事業報告書」
ここでは、中小企業における事業拡大の成功例2つを紹介します。
「有限会社とまとランドいわき」は、低農薬かつ栄養価が高いトマトを生産する農業生産法人です。2001年の設立当初には生産したトマトを市場に出荷していたものの、敷地内や駅ビルに直売所を開設し、2008年にはトマトの加工販売事業も開始しました。
同社が加工販売事業に参入したきっかけは、規格外のトマトを使用したトマトジュースを直売所で無料提供していたことです。新鮮なトマトで作ったトマトジュースは甘くて濃厚であり、飲みやすい味も評判となって商品化に至りました。現在では、トマトソース・ジャム・ゼリーなどの加工販売も行い、事業拡大に成功しています。
「奥地建産株式会社」は、住宅建築用の鋼製下地材を製造する会社です。2002年に大手電機メーカーからの依頼をきっかけとして、太陽光発電架台の製造を開始しました。
同社は太陽光発電関連分野に事業拡大することを決断し、基礎研究として材料・構造についての産学共同研究を実施しています。建築用鋼材で培った技術を水平展開し、基礎研究で得た知識を活用するなどの取り組みが評価され、2009年には産業用発電架台の製造も開始しました。現在では、住宅用発電架台で大きな市場シェアを握る企業として成長しています。
事業拡大とは「既存事業の拡大」または「新規事業への進出」を行って、企業の事業活動を大きく広げることです。現在の事業が安定していて、資金や人手などのリソースが十分であれば、事業拡大すべきタイミングと言えます。
事業拡大には成功すると大きな利益を得られる以外に、知名度の向上やリスク分散に繋がることがメリットです。一方で、事業を広げるためには先行投資が必要であり、マネジメントの負担が増えるデメリットも存在します。
事業拡大で成果が出るまでにかかる時間は1~4年程度です。紹介した成功例を参考に、事業拡大に向けた計画を立ててみましょう。